材質・豆知識
鉄鋼とは
実は「鉄(iron)」と「鋼(steel)」は違います。一般的に「鉄」とは炭素量が0.02%未満のFe元素に近い純鉄(pure iron)のことをいいます。但し、JIS規格では炭素量が2.14%~6.67%と非常に高い鋳鉄(cast iron)のことを「鉄」と定義(JIS G 1201)しており、純鉄とは真逆の存在です。「鋼」は「鉄」と炭素などの元素との合金で、炭素の量はおおよそ0.02%~2.14%、多くの場合はケイ素やマンガンなどがわずかに混じっています。機械的性質(硬さ・対変形・対熱・対摩擦・対疲労などの性質)に優れた「鋼」が必要な場合は、さらにニッケルやクロム、モリブデンなどの合金元素を添加して強化します。
一般に「鋼」は高炉や電気炉などで鉄鉱石から取り出した炭素量3~4%の銑鉄(せんてつ)より作られます。さまざまな合金のベースになるだけでなく、熱処理によって多彩な機械的性質を持たせることができる点でも非常に便利な材料です。たとえば、真っ赤に焼けた「鋼」を水中に入れて急冷することを焼き入れと言いますが、そうすることによってマルテンサイト変態と呼ぶ組織変化が起こり、一気に硬くなります。硬くなりすぎると脆く割れやすくなるので、その後さらに加熱して硬さと靭性(じんせい:亀裂の発生や伝播がしにくい粘り強さ)のバランスを取るための焼き戻し処理を行います。こうして機械的性質に優れた「鋼」の完成です。
この「鋼」ですが、大きく分けて炭素鋼と合金鋼に分類されます。炭素だけを添加した鋼を炭素鋼とよび、炭素以外の合金元素を添加してつくられた鋼を合金鋼と呼んでいます。ここでは主に炭素鋼について説明します。
炭素鋼とは
鉄と炭素の合金です。建築物の骨格や橋梁などの大型構造物に適用される普通鋼ではSS(一般構造用炭素鋼)がもっとも多く使われています。低温脆性(鋼材がある温度以下の低温になると分離破断しやすくなること)の原因となるリンと溶接強さを下げる硫黄に対して成分範囲の規定があります。
鉄を主成分とする合金のうち普通鋼以外をすべて特殊鋼と呼びます。中でも機械部品などでよく使われるのがSC(機械構造用炭素鋼)で、SS(一般構造用炭素鋼)よりも成分範囲が幅広く規定されています。
合金鋼とは
炭素鋼にニッケル、マンガン、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステンなどの合金元素を添加したものです。靭性や耐熱性などを付与したいわゆる「強じん鋼」とも総称されます。付加価値が高いほどに加工しにくくなるので、ダイヤモンド砥石よりCBN砥石での加工が向いています。
JIS規格による鉄と鋼(炭素鋼のみ)
【目次】
[1] 鉄
[1-1] 鋳鉄
[2] 鋼(炭素鋼のみ)
[2-1] 普通鋼
[2-1-1] SS(一般構造用炭素鋼)
[2-1-2] SM(溶接構造用鋼材)
[2-1-3] SN(建築構造用鋼材)
[2-2] 特殊鋼
[2-2-1] SC(機械構造用炭素鋼)
[2-2-2] SCM(クロムモリブデン鋼材)
[2-2-3] SUS(ステンレス鋼材)
[1-1] 鋳鉄
一般的に鉄は含まれる炭素の量が約0.02%未満の純鉄を指します。但し、JIS規格でいう鉄とは鋳鉄のことで、炭素の量が鋼よりも多い2.14%を超える鋼材の種類を意味しています。
鋳造で部品形成するのに適した材料です。鉄の鋳物(いもの:鋳造でできた製品)は鋼を溶かし固めたものではなく、この鋳鉄を使っています。炭素の添加量が2%以上と鋼に比べて格段に多く、これにケイ素やマンガンなどが混じった状態が、鋳鉄の一般的な組成です。
鋳鉄では炭素が黒鉛として析出(せきしゅつ:物質の溶液から固体が分離して現れること)しているので焼き入れ処理には向きません。鋳物表面の冷却が速すぎると機械的性質が低下し、鋳物表面が白くなります。これを「チルが入る」と言います。
[2-1] 普通鋼
鉄に約2%以下の炭素を添加した鋼です。製鋼時にやむを得ず入る微量のケイ素やマンガンなど以外は含みません。主なものとしては、SS(一般構造用炭素鋼)やSM(溶接構造用鋼材)、SN(建築構造用鋼材)などがあります。
[2-1-1] SS(一般構造用炭素鋼)
鉄鋼材料の中で最も使用頻度の高い材料です。特にSS400は素材や形状(鋼板、棒鋼、形鋼、平鋼)の種類が豊富に出回っており、価格も手ごろで建築構造物や機械で広く使われています。但し、溶接性は保証していないため、重要な箇所ではSM(溶接構造用鋼材)が使われます。
また、研磨もしくは研削作業は、通常の研削ならWA砥粒やA砥粒を用いた砥石、超砥粒ならCBN砥石が適しています。鉄系素材なのでダイヤモンドは不向きです。
[2-1-2] SM(溶接構造用鋼材)
船舶用(MはMarineの頭文字) として溶接性を高める目的で開発された鉄鋼材料です。SS(一般構造用炭素鋼)と同様に多くの工業用途で使われてます。
中・低温用の鋼板で、SS(一般構造用炭素鋼)より低温靭性を改善して、溶接性を保証したタイプもあります。
[2-1-3] SN(建築構造用鋼材)
鉄骨建築物固有の要求性能を考慮した規格です。SS(一般構造用炭素鋼)やSM(溶接構造用鋼材)と比較すると、鉄骨造建築物に重要な塑性変形能力や溶接性などで優れています。文字どおり新しい(NはNewの頭文字)建築構造用鋼材としてSS(一般構造用炭素鋼)やSM(溶接構造用鋼材)に取って代わるはずでしたが、それほど普及していません。
[2-2] 特殊鋼
高炭素鋼の熱処理時の組織変化を利用して、高硬度、耐摩耗性等の機能が付与された鋼です。コスト的には割高である反面、高張力鋼では得難い高硬度が容易に得られます。主なものとしては、SC(機械構造用炭素鋼)やSCM(クロムモリブデン鋼)、SUS(ステンレス鋼)などがあります。
[2-2-1] SC(機械構造用炭素鋼)
機械の部品や部材を中心に幅広く使われる材料です。S45CなどSxxCのxx部分の数字が炭素の比率(代表値)を表しています。S45CとS55Cに関してはほとんどの用途で熱処理をして多彩な機械的性質を持たせます。
研削や研磨を行う場合、通常の研削ならWA砥粒やA砥粒を用いた砥石、超砥粒ならCBN砥石が適しています。
[2-2-1] SC(機械構造用炭素鋼)
通称、「クロモリ」と呼ばれる材料です。クロムにモリブデンを入れて改良されたもので、焼き入れや焼き戻しに対する抵抗、機械的性質が優れています。靭性もあるため、自動車部品やボルト、ナット類にも使われます。500℃前後の高温下でも強度が低下しにくいといわれ、高温高圧が前提となる箇所にも使われれます。
自転車のフレームとしても人気で、適度なしなりが発生し、振動を吸収するためアルミに比べて疲労度が少ないという見解があります。ただし、クロムの添加量が比較的少ないことから錆やすいとも言われています。価格としては鋼材の中でも高い方ですが、特殊な合金に比べれば汎用度が高いので値ごろ感があります。きれいに仕上げることが出来るため、美観が求められる製品などにもよく使われます。
[2-2-3] SUS(ステンレス鋼材)
鋼にクロムを添加すると、鋼の表面にクロムと鉄合金の不働態皮膜ができ、耐食性が大幅に向上します。通常はオーステナイト系ステンレス鋼のみ非磁性体で、オーステナイト系以外は磁性体です。ただし、オーステナイト系でも強い冷間加工を加えると加工硬化(変形によって内部の原子の並び方が変わり硬くなること)が大きく進み、磁性体に変化します。